いつもの光景
母は85歳ではありましたが、大阪の下町のマンションで一人がんばって暮していました。
私は姉と2人姉妹なのですが、母は嫁に出した娘達の世話にはなれない、
と年金暮らしでまさにがんばっておりました。
そんな母の気持ちとは反対に、私も姉も実家に帰っては母に甘えてばかりいました。
母が亡くなる3日前の土曜日も、私は羽を伸ばしに実家へ帰っていました。
久しぶりだったので、母もたくさんお喋りをし、夜遅くまでテレビを見たりしていました。
翌朝、日曜日は早く起きて朝ごはんを作ってくれました。
いつものように卵焼きと、焼き鮭、私の好物鯛の子を煮てくれました。
「お茶があれば汁物はいらない」、と言ってもその日は粕汁を作ってくれました。
いつも朝からご馳走です。
残ったおかずはラップに包みお土産で持たせてくれます。
夕方までゆっくり過ごし家を出るときは、エレベーターまで見送ってくれ、
マンションを出て道路から6階のベランダを見上げると、母がにこやかに手を振ってくれました。
いつもと変わらない光景です。
建物の陰に隠れて見えなくなるまで、
80半ばのおばあちゃんと、50半ばのおばちゃんが、手を振り合うわけです。
母が亡くなって何度も何度も実家のマンションを行き来しましたが、
その都度、帰り際に6階のベランダを仰ぎ見ます。 見てしまいます。
そして私は誰もいないベランダを確認し、母の死を 少し理解するのです。